テレビコマーシャルの演出家、いわゆるCMディレクターには少し変わった人が多かった。
多かったというとCMディレクターの半数以上が変な人のように思われるかもしれないが、誤解を避けるために言っておくと、ごく稀にそういう方がいらっしゃったということだ。ただ、印象としてそういう方の記憶が強く残るから、思い出すことといえば少し変わった人のことばかりになる。
コマーシャルの撮影は、屋内外を問わずしかるべき撮影場所を借りて行うロケーション撮影と撮影スタジオに美術セットを組むスタジオ撮影に大きくわけられる。スタジオ撮影の場合、前日に美術スタッフがセットを組む。建込みという。演出家とカメラマンも立ち会って、カメラ位置を決める。それだけ決まると照明スタッフはライトを設置して、ほぼほぼ撮影準備が整う。これだけの作業をすませておけば、翌日は朝から撮影ができる。
ところが世の常として、ことはそう順調に運ばない。翌朝スタジオにやってきた演出家が「これ、違いますよ!」などと大声をあげる。セットの壁の色が違う、カメラのアングルが違う、と。だってあなた昨日の夜見てるでしょ、いいですねえとか言ってましたよねとみんなが思うのだが、相手は激怒している、触らぬ神に祟りなしなのである。急遽、美術スタッフは壁を塗り替え、カメラマンは別のアングルをさぐる、それにともなって照明スタッフもライトの位置を変えはじめる。
終わってみれば、たいした違いでもないのだが、演出家は満足げに仕事をすすめる。午前の時間を無駄に使ってしまったから、当然撮影終了は深夜である。
スタジオを後にするCMディレクターがカメラマンと美術デザイナーに上機嫌で声をかける。「今日は遅くなっちゃいましたけど、こんど飲みにいきましょうよ」と。カメラマンもデザイナーも無理に笑顔をつくって「誰が行くか!」ということばを飲みこむ。
サイコパスって絶対身近にいそうな気がする。
まさに、こういう人はいて、たぶん悪気は全く感じていない。でもそのひとに振り回されて、くたくたになって一日が終わるのです。
返信削除振り回す人はほとんど疲れることなく、ぐっすり眠っていい朝を迎えるのだ。そして昨日のことなんか覚えちゃいない。
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