広告制作会社に長く籍を置いている。
新入社員の研修を依頼されると、広告会社のしくみを話すようにしている。現場のスタッフはロケハンのすすめ方や弁当の手配の仕方などを教授しているらしい。仕事のほとんどが広告会社経由なので広告会社とはどんな仕事をしているのかを知らない手はない。もちろんアドビのソフトで絵コンテをつくることだって重要なことである。
イラストレーターだった安西水丸は、広告会社のアートディレクターとしてそのキャリアをスタートさせている。いずれイラストレーターになるのだから、イラストレーションの仕事を発注する立場を経験したいと思ったそうだ。彼はのちに出版社でエディトリアルデザイナーになる。いずれにしてもイラストレーターという職業を視野に置いて会社員生活を送った。
多くの人、特に広告制作会社のスタッフは、発注者側の視点に乏しいように思う。広告主は何を求めているのか、そのために広告会社の制作部門の専門職は何をめざすべきで、誰に何をどう発注するのか。制作会社にいるとなかなかそこまで気がまわらない。そうじゃない人もいるが、凡庸なスタッフはただ日々追われるだけである。
広告会社の話を頼まれるのは、わずかな期間だったが広告会社に籍を置いていたせいもある。少なくとも僕は、「代理店経験者」なのである(広告会社と呼ぶか広告代理店と呼ぶかは人によってまちまちだが)。制作セクションしか経験はないけれど、営業がいて、媒体部門があって、という最低限のしくみは知っている。
とはいえ、それももう四半世紀も前のこと。デジタルなんて言葉が二本の針ではなく、数字で表示される時計のことくらいしか意味しなかった時代の話だ。というわけでもういい歳なのに、『基本』に立ち返ることにした。
すぐれた教科書である。新入社員に広告会社って何をしてるんですかと訊ねられて答えられない制作会社の人すべてに読んでもらいたい本である。
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