今も現役でがんばっている映像プロデューサーの田中遊(仮名)は新入社員の頃は細々としていたが、みるみる太ってきた。そういう体質だったのかもしれない。30代以降顕著になり、ダイエットなど考えず、呼び名を田中ブーにして「まいうー」などと言ったらどうかとすすめたこともある。要するに愛されるでぶキャラをめざせと。
田中は40くらいで結婚した。連れ合いも田中のダイエット志向を支えてくれていたようだ。とはいえ、映像制作の世界は不規則な日常を生きざるを得ない。ある日、撮影だか、編集だか、深夜に帰宅した田中は猛烈な空腹におそわれ、コンビニでカップ焼きそばを買い、家族の寝静まった深夜ひとり食す。さぞうまかったことだろう。とはいえ、日頃のダイエットを気にしてくれる連れ合いにこんな夜中に焼きそばを食ったとは思われたくない。食べ終わった容器を外のごみバケツに出し、証拠隠滅をはかった。
残念なことに湯切り口のシールを捨てそびれた。
翌朝、昨日カップ焼きそば食べたの?と連れ合いに問われた田中は返す言葉もなくしおれたという。
文体模倣で文豪たち(文豪に限られるわけではないが)がカップ焼きそばのつくり方を綴ったらどうなるかといった不思議な本。読書量が多いわけではないから、これが模倣になっているのかどうかも見分けがつかない。おもしろいと思うところもあったし、どこで笑えばいいのかよくわからないところもあった。
文体模倣といえば、パスティーシュの名手清水義範を思い出す。『蕎麦ときしめん』『永遠のジャック&ベティ』『国語入試問題必勝法』など、とりわけ初期の短編集には笑わせてもらった。
お湯を注ぎ、3分待って湯切りし、ソースと混ぜるという流れを繰り返し読んでいるうちに、カップ焼きそばが無性に食べたくなってしまった。カップ麺のメーカーなどで組織される日本即席食品工業協会という団体がある。こちらが仕掛け人なのではないだろうか。
0 件のコメント:
コメントを投稿