2024年5月7日火曜日

大岡昇平『武蔵野夫人』

大岡昇平『武蔵野夫人』を読む。
舞台は国分寺崖線。昔の多摩川が武蔵野台地を削った崖地である。地元では「はけ」と呼ばれている。小説の冒頭ではけがどうやってつくられたか、どんな特徴を持つ土地かが紹介される。読みすすめるにつれ、行ってみたいと思う。
実を言うと40数年前にはけの道を歩いたことがある。大学一年のとき。一般教養の地理の授業だった。担当の先生は名前ももう忘れてしまったが、授業中寝ている学生を今おもしろい話をしてるからといってわざわざ起こしに来るような人で、2回目か3回目の講義のときに教室を出て、国分寺崖線を案内してくれた。さして地理だの地形だのに強い関心を持っているとは思えない(僕だけか?)新入学生相手の一般教養の講義でフィールドワークをしちゃうことからして熱心な先生だったんだなと今になって思う。
中央線で国分寺駅。東に向かって歩きはじめる。野川の北側の道に出て、さらに東進。途中に貫井神社がある。湧水が見られる。手を振れはしなかったが、清冽で冷たそうだ。さらに東へ。北に向かえば武蔵小金井の駅に通ずるであろう通りを横切る。間もなくはけの森美術館にたどり着く。その隣の家が『武蔵野夫人』の舞台となった「はけの家」である。
物語の主人公は秋山道子。夫は大学でフランス語を教えている。学徒召集で南方に渡った従弟勉が復員してくる。勉はジャングルを彷徨い、地形に関して少なからず興味をおぼえたようだ。はけの家周辺をよく散策しては強く惹かれる。勉は作者自身を投影させた存在だろうか。大岡も南方(ビルマではなくフィリピンだが)から復員している。また主に渋谷辺りで育った彼にとって、宇田川や渋谷川といった水辺は身近な存在だった。野川流域の河岸段丘に魅力を感じたのはそのせいもあるのではないか。
夏になると戦争の本をよく読む。武蔵小金井駅で帰りの電車を待ちながら、今年は『レイテ戦記』を読んでみようと思った。

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