世の中に絶対といえる尺度はない。
ありとあらゆるものが相対的でしかない。ユークリッド幾何学もニュートン物理学もすべて人為的に生み出された想像の産物だった。学校で教わった世界史は西洋史だった。歴史というものは支配者の歴史だった。こういうことをおぼろげながら感じはじめたのはクロード・レヴィ=ストロースを読んでからだと思う。
マスメディアと権力の関わりはこのあいだ読んだ『タブーの正体』で知った。
警視庁に詰める事件記者のイメージは『レディー・ジョーカー』で見事なまでに描写されていた。
アウトサイダーとなってプロの革命家をめざす男の姿を『オリンピックの身代金』で垣間見た。
大江健三郎は『水死』で戦中と戦後のふたつのイデオロギーの中で生まれ育った世代として晩年ようやく自覚できたようだ。自らの立ち位置を変える「被害者=加害者」という視点がそこにはあるように思える。
この本を読みながら、これまで読んできたわずかばかりの本たちが脳裏をよぎった。これほどさまざまなことを思い出させてくれる本も珍しい。惜しむらくは、もっと一冊一冊を丁寧に読んでおけばよかった。
「ハイコンテキスト」、「マイノリティ憑依」、「サバルタン」、そして「当事者」とこの本からこれまで知らなかった言葉たちとも出会うことができた。
佐々木俊尚はよく研がれた刃物で時代を切りとり、意外性に富んだ骨太な論考が読むものを楽しませてくれる。がっつりと読み応えのある一冊だ。さすがは元事件記者だけあって、その情報収集力と読み手を動かす展開力には舌を巻く。旧作も含めて、ちょっと読み漁ってみようかと思う。
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