2012年3月23日金曜日

幸田文『おとうと』

暖かくなったり、寒くなったり。
今年の東京は例年になく寒かったと思う。昨年の今時分を思い起こしてみても(震災という時間的なランドマークがあったので思い出すのが容易だ)、もう少し暖かかったような気がする。自分のブログを振り返ってみると昨年の3月はやはり東京散歩ものの本ばかり読んでいたようだ。もちろんそればかりではないけれど大きくくくるとその手の本が多かった。一年たってどうかといえば、やはり大差なく、下町散歩ものが根強い。
幸田文の『おとうと』も隅田川沿いの下町が舞台である。この本は幾度か映画化されている。残念ながらいずれも観たことがない。
小学校に上がる頃、もともと身体の弱かった母親は病気がちで入院していた。かすかにそんな記憶がある。げん同様3歳年上の姉がぼくの身のまわりの世話をしてくれていた(これもまたかすかな記憶だ)。靴下の穴のあいたところを糸でぐるぐる巻きにし、ぼくに履かせていたという。このことに至ってはまったく記憶がなく、今でもときどき母が話してくれる笑い話のひとつである。小学校の3年生までは姉に手を引かれながら学校に通った。4年生になって姉が中学生になり、ようやくひとりで学校に通うようになった。ちょうどいい具合に登下校をともにする友だちもできた。
ぼくは自分ひとりではなにもできない人間である。小さい頃からとりわけ買い物が苦手でGパンひとつ買いに行くのさえ姉に付いてきてもらった。おそらく高校生くらいまで自分ひとりで買った服も靴もひとつとしてなかったと思う。姉は姉で着るものを見立てるのが三度の飯より好きだったのだ。今となっては「姉がよろこぶようにいいなりになっていたんだ、わざと」などと姪たちにはうそぶいている。
読み終わって思うのは死んでしまうのがげんじゃなくてよかったということだ。ただそれだけだ。

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