地下鉄麹町駅の近くに昔ながらのボタン屋がある。
母親が洋裁の心得があって、布やボタンを買いに行くのに付き合わされた。たいていは大井町の駅周辺のお店で、ゴンゲンチョウとかミツマタと呼ばれていた商店街にあった。
子どもの頃からボタン屋だけはなぜか好きで、はがきが入るくらいの箱に同じデザインのボタンがしまってあって、その短い辺の側面に大きいのから順番に“これだけのサイズがございます”然として見本のボタンが貼り付けてあった。その側面が店内ところ狭しと積み上げられている。
おそらくはこのボタンという、洋裁の材料にしては模型工作パーツ的な硬質感とバラエティに富んでいる色、形が少年の創作的興味を刺激したのだろう、と思っている。
麹町のボタン屋の前を通るたびにそんなことを思い出す。
川上弘美は案外、好きだ。
言葉がとてもだいじにされていて、文章を慈しんでいる感じがいい。
この本は西野幸彦というしょうもない男をめぐる女性たちの一人称による連作だが、男性の目で読んでみると主人公は西野ではなく、それぞれの短編に登場する女性たちだ。ひとりの男を軸にはしているが、ぼくにしてみればひとつの旅先をいろんな人が好き勝手に論評している紀行文ように思える。それって読み手であるぼくが男だからだろうか。
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