2008年6月19日木曜日

浅田次郎『霞町物語』

港区には古い地名が残っていたというのはなんとなく記憶にある。子どもの頃よく行った赤坂の伯父の家は丹後町という名前だったし、その後引越した六本木三河台公園のあたりは今井町だったと思う。今でも古いタクシーの運転手は龍土町とか高樹町などとよく使う。銀座も尾張町だの木挽町だの粋な町名があったそうだ。なかなか風情がある。
ぼくの中で浅田ワールドは2種類あって、ひとつはおとぎばなし系で『鉄道員』とか『地下鉄に乗って』のようなちょっとしたファンタジー。もうひとつは正攻法もの。飛び道具を使わずに書き綴った小説群だ。といってもさほど数多くの作品を読んだわけではないから偉そうには言えないが。
『霞町物語』は正攻法の自伝的連作短編集といったところか。舞台は麻布十番、霞町、六本木、赤坂、青山ときわめて都会的で洗練されている場所だが、これらは今風にとらえると都会的なだけであって、登場人物はいわゆる港区土着の原住民であり、物語はきわめてローカルな話だ。会話の描写などにその辺はあらわれている。
かつて都会の真ん中のあらゆるところに潜んでいたこうした田舎ものたちにぼくは心底あこがれちゃうんだな。

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