2024年12月13日金曜日

鷹匠裕『聖火の熱源』

8月頃、フェイスブックで著者自ら、新しい本が出るのでよろしくみたいなポストがあり、さっそく購入した。すぐに読みはじめたかったのだが『レイテ戦記』を読むのに手間取っていたこともあり、なかなか頁を開くことができないでいた。
鷹匠裕の作品は『帝王の誤算』『ハヤブサの血統』に次いで3作目になる。
著者は大手広告会社の制作局に在籍していた。その頃何度か仕事をしている。彼はディレクター的な立ち位置で僕らは具体的なCMの企画を描いて持ち寄った。鷹匠は(すでにそんな年齢でもなかったのだろう)絵コンテを描いたり、コピーを書いたりすることはなかった。彼の表現に接することがなかったので後に小説を書いたと聞いて、どんな文章を書く人なのだろうと興味を覚えた。
清水義範の長編に『イマジン』という小説がある。パスティーシュの名手として知られた清水のSF作品なのだが、奇想天外な結末に驚いた記憶がある。鷹匠裕の新作はそれに匹敵するくらい奇想天外だ。誰がこんなことを考えるんだと思っているうちにストーリーはどんどん展開していく。気がつくと読み終わっている。
この作品は前々回の2020東京五輪に対する痛烈な批判になっている。広告会社が主導する商業的なイベントからアスリートのための本来の姿のオリンピックを取り戻す戦いの物語である。理想の五輪をめざす主人公らの組織はややもすれば青臭いところがある。さまざまな抵抗を受けながらも理想を形にしていく上でITやソーシャルネットワークをフル活用する。ちょっとした近未来小説でもある。その辺りは奇想天外では決してなく、おそらくは2028ロス五輪では現実のものとなるのではないかと期待できる技術だと思う。
巨大で複雑なオリンピックのしくみや裏側はもちろんのこと、最新のテクノロジーに至るまで鷹匠は丁寧に取材を重ねたに違いない。結果として地に足の着いた夢物語を結実させた。渾身の一冊であるといえよう。

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