当時の記憶はほとんどない。とりあえず飛び込んだ教室で履修カードを出した。幸運なことにカフカの短編を読む講義だった。毎週日本語訳をノートに書いて授業にのぞむには難解で手間ではあったが、カフカを読むというのはひとり旅した未知の街で知人に偶然会ったような気持だった。とはいえ文庫本で『変身』『審判』『城』を読んだ程度の付き合いでしかなかったが。
大学生としてのラストシーズンで(追いつめられながら)読んだのは“Beim Bau der Chinesischen Mauer”、直訳すると「万里の長城が築かれたとき」といった感じか。1981年、新潮社から決定版カフカ全集が刊行された年である(知っていれば手に入れていたのだがなあ)。独和辞典と格闘しながら、なんとか読み終えた。学年末の最後のテストもクリアできた。今この歳になってみれば、笑って話せる思い出のひとつだ。
大学生としてのラストシーズンで(追いつめられながら)読んだのは“Beim Bau der Chinesischen Mauer”、直訳すると「万里の長城が築かれたとき」といった感じか。1981年、新潮社から決定版カフカ全集が刊行された年である(知っていれば手に入れていたのだがなあ)。独和辞典と格闘しながら、なんとか読み終えた。学年末の最後のテストもクリアできた。今この歳になってみれば、笑って話せる思い出のひとつだ。
浅田次郎のこの小説は、万里の長城が舞台になっている。
従軍記者として中国戦線に派遣された探偵小説家小柳逸馬が謎の事件の解明のため、現地に派遣される。戦記のようでもあり、推理小説のようでもある。事件に関与したと思われる人物一人ひとりの尋問が積み重ねられ、軍部の不合理もあぶり出され、この戦争の意味も問われる。が、それにもまして印象に残るのは兵士たちがうまそうに食べる中国料理だ。貧しいと思っていた中国の食卓は豊かなものだったと浅田次郎は登場人物の川津中尉に語らせている。
それはともかくとして、万里の長城という謎に包まれた舞台で謎に包まれた事件が起こる。謎に満ちた小説だった。万里の長城の謎を僕はカフカの短編に教えてもらった。
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