2021年1月25日月曜日

慎泰俊『ルポ児童相談所-一時保護所から考える子ども支援』

都立K高校の、郊外にあるグラウンドで星野先輩に会った。
前回も書いたけれど、その人が星野さんであるとどうしてわかったのか、よくわからない。気がつくと僕は先輩の前にいて、同じ中学校から来た者だと自己紹介していた。バレーボール部の一員として今日(体育祭の前日)の準備に参加したということも(たぶん)伝えた。
星野さんは笑みをたたえたまま、僕の身体をくんくんとしながら一周する。
「うん、四中の匂いがする。なつかしいなあ。星野です、よろしく」と言った。僕らの出身校は地元で四中と呼ばれていた。それから先は何を話したか記憶はない。時間にすれば10分にも満たないような邂逅だった。
星野さんは大学進学時に社会福祉を志したと聞いている。どういうわけで福祉を学ぼうとしたのか、どうしてそのことが印象に残っているのか。たぶん当時(1970年代半ば)の若者の多くは福祉になんて関心がなかったと思うのだ。翳りを見せはじめたとはいえ、経済は成長していた。多少不景気な年があっても、まだまだそのうちなんとかなるだろうと誰もが思っていた時代である。社会福祉を学ぶ大学もそう多くなかったと記憶する。
児童養護に特に関心があるわけでもなかった。たまたま児童福祉に関する仕事があって、少しは勉強したくなっただけである。広告の仕事を長くしていると妙に広告の専門家になったような気がしてくる。それはそれで結構なことだが、むしろ広告の仕事のおもしろさは未知の領域に(素人なりに)接点を持てることだと思っている。かっこいいことを言ってみたが、せっかく出会えた分野だから、ついでに多少の知識を得ておこうという実はケチな考えなのだ。
福祉の領域は広い。高齢者、障害者、困窮者など弱者と向き合っている。児童福祉の、児童相談所の仕事もたいへんなことがこの本でわかる。
40数年前に出会った星野先輩が僕の知らなかった世界にめぐり合わせてくれた、そんな気がしている。

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