ラジオをよく聴いていたのは中学生から大学生くらいの時期、1970年代のはじめから80年代のはじめくらいだろうか。音楽は知らず知らずのうちに耳から入り込んで血肉となる栄養みたいなものだった。
広告の仕事をするようになって、歌をつくる人を意識するようになる。どんな表現にもつくり手がいるということをつくり手のはしくれになって気が付いた。音楽のことはわからないが言葉なら少しわかる。昔聴いた流行歌はすぐれた歌詞に支えられていた。
作詞家で好きだったのは、北山修、なかにし礼、阿久悠、松本隆。そして最近になって感服しているのが中島みゆきだ。僕にとっての五大作詞家のうち阿久悠と松本隆が題名になっている。さっそく読んでみる。
この本は(著者本人も言っているように)作家論ではない。阿久悠は阿久悠の時代を生きた作詞家であり、松本隆は松本隆のキャリアの中で創作を続ける。時代の渇きを癒す歌を書き続けた阿久悠と決して時代に寄り添うことのなかった松本隆。比較したところであまり意味はない。
著者は歴史年表を紐解くように70年代半ばから80年初頭のヒットチャートを追いかける。どんな曲が売れたか流行ったか、淡々と史実が並べられる。70年代を突っ走てきた阿久悠は、写しだす時代そのものが見えにくくなった80年代以降、その詞に味わいを増していく。歌を売ることをやめ、遺すようになっていく。
あとがきを読むと著者は坂崎幸之助『J-POPスクール』の編集にたずさわっていたという(僕にとってニューミュージックの教科書だ)。歴史年表の中にときどきふたりのエピソードが資料文献から効果的に引かれる。とりわけ大瀧詠一のアルバム《A LONG VACATION》の話は知らなかっただけによかった。
〈君は天然色〉をもう涙なしには聴くことができなくなった。
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