数案のテレビコマーシャルの企画コンテだった。もう二十年近く昔の話だけど。
送って寄こしたのは松尾卓哉。当時あるかつらメーカーのテレビやラジオのコマーシャルをいっしょに企画していた。休日返上でアイデアをまとめた彼はクリエーティブディレクターのチェックをもらい、さらに僕にリライトをお願いしろとアドバイスを受けた。
それが日曜日のファックス着信である。
もちろんどんな内容のプランだったかははっきり憶えていない。元アイドル歌手が母親役で授業参観に行く。事前に子どもからおしゃれしてきてねとか言われたのかもしれない。そのときの元アイドルが言う。「だいじょうぶ、ママは昔○○(アイドル歌手の名前)だったのよ!」おしゃれなウィッグを着けて教室にあらわれた元アイドルのママが脚光を浴びる。たしかそんな企画案があったように思う。
日曜日に絵を描いて、翌月曜日にスキャンして当時やっと使い方を覚えたばかりのフォトショップで色を着けた。おもしろいアイデアばかりだったけど、残念ながら制作されて放映されるには至らなかった。
ラジオコマーシャルもいっしょにつくった。当時の松尾卓哉のラジオCMはありふれた台詞を(商品名とか商品特徴を連呼するのではなく)とことん繰り返すパターンが多かった。原稿ではちょっと強引かなと思ったけれど、録音してみたらおもしろかった。
その頃の松尾卓哉はまだまだ売り出し中の若手クリエーターだった(カンヌ国際広告祭で入賞し、忍者のコスチュームで表彰式にのぞむ数年前だった)。それでもすでに完成形をしっかりイメージしながら、企画やコピーを考えていたのだろう。
広告制作にたずさわる制作者がクリエーティブの手法やCM制作から学んだことなどを本にすることは少なくない。そのなかでもこの本は平明で誰にでもわかりやすい。松尾卓哉のつくったテレビCMのように。