2008年7月29日火曜日

井村順一『美しい言葉づかい』

今年の高校野球は記念大会とやらで出場校が例年より多い。埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪、兵庫の6県から2校出場するのだそうだ。というわけで上記6県は東西なり南北なりの区分けをして代表校を2校にしている。
決勝に進出した2校を第一代表、第二代表にすればいいんじゃないのっていう意見もある。ぼくもそうだ。それでも負けたチームも甲子園に行けるのはおかしいと主張する人もいて、世の中って難しいと思う。
この本は「フランス人の表現技術」という副題がついており、17世紀に現在の洗練されたフランス語の基盤ができたということを主テーマとして伝えている。サロンと呼ばれる会話を磨き、教養を育む場が盛んになり、その中から「美しい言葉づかい」が尊重されるようになり、ヴォージュラという人が『フランス語に関する注意書』という書を著した。そんな時代の話。
ヴォルテールの著書に『ルイ14世の世紀』があるが、普通の日本の市民としては、なかなか17世紀のフランスにはお目にかかれるものではない。そういった意味でこれは貴重な新書であると思う。



2008年7月25日金曜日

高山鉄男編訳『モーパッサン短編選』

高校野球西東京大会は今日準決勝。
第一試合は日大三対早実。2年前の決勝戦と同じ。日大三エース関谷をおそらく早実打線は打てないだろう、そんな試合運びだった。しかしだ。高校野球ってのはおもしろいもんだね。あれほど打てなかった早実打線が8回同点、9回逆転だもんね。びっくらこいた。両校とも元は港区赤坂と新宿区早稲田に学校があった。神宮球場は卒業生たちが大いに盛り上げたにちがいない。
第二試合は日大ニ対日大鶴ヶ丘。付属校どうしの一戦。昨年の秋から日大ニが強いので密かに注目はしていたのだが、どうもこのチーム、エースで4番のワンマンチームの印象がある。いわば個人技でここまでのしあがってきた、昔で言えば江川のいた作新学院か。いやいや、下手な評価はしちゃいけないな。
試合はシーソーゲームで鶴ヶ丘高校がサヨナラ勝ちしたようだ。
ところでモーパッサンってのはいくら外国の人とはいえ、子どもながらに変な名前だと思っていた。
短編の上手い作家とはよく言われているが、たしかにおもしろい。朝晩電車の中で2編、夜寝るとき1編。コンスタントに読みたい名手である。


2008年7月23日水曜日

湯本香樹実『春のオルガン』

子どもの頃、日本は卓球が強かった。
小学生のとき、名古屋で世界卓球選手権が開催され、テレビでも中継された。日本は前回の大会で伊藤繁雄が男子シングルスで優勝していたし、その前はシェーク一本差しという個性的なグリップで豪快なドライブを決める長谷川信彦が優勝していた。そのころ子どもだったのでよくわからなかったが、中国が世界選手権に参加していなくて、それでも定期的に開催される日中対抗戦では当時荘則棟という前陣速攻のおそろしくスピードのある選手が日本選手を打ち負かしていた。で、そうそう、少し思い出してきた。名古屋大会から中国が世界選手権に復帰したんだ。それで日本人選手による男子シングルス3連覇の前に中国選手が立ちはだかるものと予想されていたんだ。でも、結果はベンクソンというシェークを振り回すヨーロッパスタイルの選手が連覇をねらう伊藤を破って、何十年ぶりかでヨーロッパにタイトルを持ち帰ったんだ。
伊藤繁雄という選手は台から離れて豪快なフォアドライブを連打する選手で、ほとんどバックは使わない。たまにショートで返すことはあるけれど、とにかく右へ左へフットワーク巧みに動き回ってそのフォアハンドから強烈なドライブを打ち込んでいた。
ぼくらの卓球仲間はほとんどがペンのドライブ型をめざした。中には当時流行りだしたシェークハンドグリップでヨーロッパスタイルを模す者、円いペンホルダーに表ソフトラバーを貼って、前陣速攻を目指す者もいたが、主流派はなといってもペンのドライブ、伊藤繁雄のスタイルだった。それはぼくたちが体育館を使って卓球をするという環境的に恵まれていたせいもあった。
後に校庭開放日が少なくなるとぼくらの卓球場は児童センターとか児童館と呼ばれた区の施設になる。そこは当時東京からなくなりつつあった空き地や広場みたいな遊び場の代替品のような施設だった。

なんの話だっけ?
ああ、湯本香樹実の『春のオルガン』だ。
ぼくには姉がひとりいて、けっこうなついていた。自分でいうのも変だが、ずいぶん姉思いの弟だった。だからってわけじゃないが、ちょっとかしこくって、素直な弟が登場人物としていると、「これって、おれっぽくね」みたいな見方で読んじゃうんだよね。
それにしてもこの作者、じいさん書かせたら日本一だね。


2008年7月18日金曜日

エミール・ゾラ『居酒屋』

昨日の3回戦は素晴らしい試合だった。在学中から卒業してまで30数年、すべての試合を観てきたわけじゃないが、それでも30試合近くは観ているだろう。まさにぼくが観てきた試合史上最高の一戦だった。そして最後の一戦だった。
今日は注目の試合があった。昨年秋季新人戦の覇者にして選抜代表、なのに春季大会で初戦敗退し、ノーシードの関東一と春季大会の覇者、今大会第一シードの帝京が早くも3回戦で激突したのだ。先ほど高野連のサイトで結果を見たら、なんと第一シード帝京が敗れた。今日の空模様のように優勝争いに暗雲が立ちこめてきた。
で、なんの脈絡もなくゾラを読む。もともと新聞に連載された小説だそうだ。どうりで、各章ごとにちゃんと事件があって、連続ドラマのような盛り上がりがある。
思い出した。このあいだ読んだ『パリとセーヌ川』によって触発されて読もうと思ったんだ。


2008年7月16日水曜日

二宮清純『プロ野球の一流たち』

音楽プロデューサーのM君が腱鞘炎になってしまったそうで、しばらくは卓球の練習はお休み。
かわって野球。高校野球東東京大会が先週からはじまって、2試合を観戦。今年はぼくの出身校が来年には完全に中高一貫校に変わるため、3年による都立高校のチームと1、2年生による区立中高一貫校のチームと合同で出場している。これは学校名もシステムの異なるふたつの学校の合同チームだから、3年生と下級生とではユニフォームもちがう。まるで草野球を見ているようだ。とはいえ、1回戦、2回戦と勝ち進んで、レベルはそれなりに上がってきた。もう草野球ははるかに越えた。高校生ぐらいだとひと試合ごと、めきめきと力をつける。
次の3回戦にはシード校が出てくる。いよいよスタンドで都立高校の名を刻んだ校歌を聞くのも最後かもしれない。

二宮清純は、地に足の着いた本格派のスポーツライターだ。スポーツを大きくとらえる視野の広さ、畳みかける構成力もさることながら、インタビューの力がすごい。
こんど卓球でM君に勝てたら、ぜひインタビューされたい。

2008年7月8日火曜日

小倉孝誠『パリとセーヌ川』

テーマがちゃんとしていると本は読んでいて面白い。
著者はセーヌ川をパリ論の中心に据えて、歴史、旅、文学、映画、絵画とさまざまジャンルに飛翔し、セーヌとパリを顧みる。幅広い知識と読書量が支える仕事だ。
ぼくはどちらかといえば、フランスにもし旅できたとしても、パリにはよほど余裕がない限り、とどまるつもりはないと思っていた。それよりも見てまわりたい地方の村々がいくらでもあるからだ。でもこの本を読んで、まあパリにも3日くらい充てたほうがいいかもな、などと獲らぬ狸の旅程表を書き直してみたりするのである。

2008年7月6日日曜日

小川糸『食堂かたつむり』

小学校の1級上にIという者がいて、卓球だけは上手かった。 放課後や休日の校庭開放では、たいがい野球をするのだが、上級生に場所をとられ、行く当てのない下級生は体育館で卓球をする。そこには卓球だけ番長なIがいて、試合をする、というか無理やりやらされる。叩きのめされる。まともにラリーも続かず、あっけなく終わる。 そうこうするうち卓球番長も気づいたのだろう。こいつら下級生をレベルアップさせれば、放課後の卓球はもう少しましになるんじゃないかと。ある日を境にIはぼくたちにラケットの握り方、スイングの仕方、サーブの打ち方など基本を教えはじめた。素振りもさせられた。腕立て伏せをするといい、とかトレーニングのことまで伝授した。 ぼくらはIから何点かポイントを奪えるくらいには進歩した。 今にして思えば、ぼくの卓球はほぼ100%、Iから教わったものだ。
実は先週、音楽プロデューサーのM君から卓球をしようと誘われ、久しぶりにラケットを振ってきたのだ。おかげで先週はずっと筋肉痛だった。 そのM君から、おもしろかったですよとすすめられたのが小川糸の『食堂かたつむり』だ。なかなかオーガニックなお話で、結構なんじゃないでしょうか。途中までは梨木香歩の方向に行くのか、吉本ばななの方向に行くのかどっちかなと思っていたら、ややばなな方向でした。

2008年7月5日土曜日

アドフェスト2008展

汐留アドミュージアム東京。

危うく行きそびれるところだったアドフェスト展。昨日なんとか時間をやりくってTV部門を中心に見た。
アジアのCMは、ここ何年か、ものすごくパワフルだ。インドやタイのCMがカンヌで上位に入賞したりして、勢いを感じる。そんな中、日本の作品にもある意味、勢いが戻りつつある。
ここのところ国際的な広告賞では常連となりつつあるエステワムのBeauty Bowling(Silver)などは、これまで以上にハチャメチャだ。カルピスソーダのThe Kind Boy(Blonze)あたりは日本的なギャグかと思えるが、サントリー胡麻麦茶のFireman(Blonze)あたりになるとかなり東南アジアな発想といえるだろう。いずれも商品と広告メッセージをできるだけ薄く繋ぎとめることで表現の自由度を増している。
日本の2作品がGoldを受賞したが、一本はリクナビの山田裕子の就職活動篇。リクルート学生をなぜかスポバで応援するサポーターがいて、そのばかばかしさと熱さが絶妙に面白い。
もうひとつはマクセルのDVD。記憶にとどめておきたいことはマクセルのDVDでという一連のCMシリーズの中のバリエーション。廃校となる小学校のカウントダウンを映像にとどめるというドキュメンタリータッチの佳作。
都市化=農村の過疎化に加え、少子化という現代日本の問題を見事に浮き彫りにして見せており、そんな社会性のあるメッセージが審査員にも届いたのだろうか。とはいうものの、こうした問題提起はCMでできても、それらの解決に向けて、CMは何ができるのだろう。広告ってまだまだ無力のような気もするのだ。


2008年7月3日木曜日

杉浦日向子とソ連編著『ソバ屋で憩う』

犬か猫かという嗜好の問い方があるのと同じくらい明快な区分けの仕方としてそばかうどんかという問いかけがある。もちろん迷わずそばである。
昼間ちょっとした隙をねらって、そば屋に行って、熱燗とかまぼこを注文する。これぞ至福のひとときである。
銀座界隈なら「よし田」、「さらしなの里」、麻布界隈なら「永坂更科布屋太兵衛」、「堀川更科」、赤坂界隈なら「赤坂砂場」、「虎ノ門砂場」、上野界隈なら「並木藪」、「池之端藪」、神田界隈なら「まつや」、「室町砂場」、「神田藪」、「一茶庵」、荻窪界隈なら「本村庵」、「鞍馬」…。

ぼくの中でそば屋は大きく分けて、
◆伝統系…いわゆる老舗で昼夜自在に酒が呑める
◆ブティック系…こだわりの店主がひとり黙々とそばを打つこじんまりとしたそば屋
◆町そば系…出前をしてくれる町のおそば屋さん。オフィス街や駅に近いと夜居酒屋になるところもある
◆立ち食い系…いわゆる立ち食いそば
となるのだが、案外いけてないのが、ブティック系。伝統系のそば屋で修行の末独立した店もあるが、中には脱サラして独学で店を立ち上げたケースも多い。だいたいからして値段が高く(もり・かけで700円以上)、突飛なつまみがある(そば屋のつまみは本来そばのトッピングを加工したものであるべきだ)。そんなわけでぼくが行くそば屋はおのずと伝統系になるわけだ。

町そば屋にも隠れた名店がある。半蔵門駅に程近い「麹町長寿庵」は出前で食べてもうまいそば屋だ。夕方はやめに店に行くと紋付を着た人がそばをすすっている。国立劇場の出演者が出番前に腹ごしらえをしているのだ。
赤坂見附駅近く「赤坂長寿庵」もいい。鴨せいろならここに限る。

現時点でぼくがいちばん好きなそば屋は西荻窪の「鞍馬」で、いちばん行ってみたいそば屋は山形の「萬盛庵」だ。
まあ、そば屋の話をしだすときりがない。つづきはこの本でお楽しみください。