母の実家は千葉の千倉なのだが、白間津という集落と西隣の七浦という集落の間は、岩場が隆起したような土地なので、人家がほとんどなかった。地元の人たちはそのあたり、岩場と草むらしかないあたりを「カアシンハラ」と呼んでいた。そう記憶している。
磯と同じようなその岩場の洞窟には昔、「手長ばあさん」が住んでいた。と母親に聞いたことがある。夜になると「手長ばあさん」は洞窟から磯まで手を伸ばして「シタダメ」と地元で呼ばれる小さな巻貝を採っては食べていたという。
真偽のほどはわからない。たぶん地元に長く伝わる口承なのだろうと思う。母はおそらく、その母か祖母に聞いたのだろう。話好きの母親からはいくつかそんな昔話を聞いて育った。
夜は危険な場所なので子どもたちを近寄せないように昔の人が考えた作り話かもしれない。
ジョルジュ・サンドはフランス、ベリー地方の民間伝承を採集していたようだ。近代科学がまかり通るようになった今となっては、迷信めいた話なのだが、著者はそこにある真実を見出しているように思う。その着眼がなんとも素晴らしい。
サンドによると、妖怪やら幻覚やらその手の話は古代からあって、農民たちはそんな不思議な世界と協調して生きてきたという。で、その手の魔物が悪いものになったのはキリスト教文化とその中心的な時代であった中世なんだと。なんとなくわかる気がする。
「シタダメ」は本当はなんという名前の貝なのか、いまだに知らない。ただ茹でてマヨネーズであえたり、かき揚げにするとめちゃくちゃうまい。
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