2023年5月30日火曜日

夏目漱石『草枕』

卓球世界選手権が終わった。日本勢は女子シングルスとダブルスで銅メダル、混合ダブルスで銀メダルと健闘した。
テレビ観戦しながら、ふと混合(ミックス)ダブルスってヘンな呼び方だと思った。男女がいっしょにプレーする競技をあえて規定する時代でもあるまい。アイススケートフィギュアで混合ペアというか?混合アイスダンスというか?男子のダブルスがあって、女子のダブルスがあって、さらに混合があるという発想がどうなんだろう。
卓球王国中国では世界ランカー上位選手たちの厳しい予選によってシングルス、ダブルスの代表を選出する。これはどこの国も同じことだ。中国の場合、選に漏れた実力者が混合ダブルスにまわる。日本にとってはチャンスである。東京五輪で金メダルを獲った水谷隼・伊藤美誠ペアは見事だった。
僕が思うに、これからは団体戦も男女いっしょに国別にすればいい。ダブルスもしかり。混合ダブルスという呼び方はやめて、「ダブルス」と称すべきだ。そのなかで男子だけのダブルスがあり、女子だけのダブルスがある。そんな考え方でいいのではないかと考える。男女でペアを組むダブルス=ダブルスという認識が高まれば、中国だって一線級の選手を送り出してくるだろう。日本をはじめ他の国はこれまでのようにこの種目で金メダルと獲りにくくなるに違いない。しかしそれもレベルアップのためには必要なことだ。
智に働けば角が立つ情に掉させば流されるという書き出しだけを何度も何度も読んできた。その先を読んでみるのははじめてである。
この温泉地はどこだろうと気になった。調べてみると熊本であるという。漱石は熊本の第五高等学校の英語教授として、4年ほど暮らしていたのだそうだ。温泉以外にもかつて住んでいた家や散歩道、茶屋などが漱石ゆかりの場所として観光地になっている。熊本にはいちども行ったことはない。もし訪ねる機会があれば、この温泉は要チェックである。

2023年5月28日日曜日

村上春樹『街とその不確かな壁』

実家から歩いて10分ほどの小さな神社のなかに図書館があった。当時わが家からいちばん近い図書館だった思う。そこからさらに5分ほど歩くと大きな図書館があり、神社のなかの図書館はその分館だった。
こじんまりとした木造二階建ては、当時の小学校の校舎を連想させた。一階は大人向けの本が並び、黒光りした木の階段を昇ると絵本や児童書のコーナーがあったと記憶する。今はもうその場所に図書館はなく、記憶も薄れてきているが、そこは僕が生まれてはじめて訪ねた図書館だった。
図書館にはササキさんという中年の男性がいた。不思議なことにはじめて会ったときから僕と姉のことを知っていた。貸し出しカードの名前を見て、ふたりを知り合いの子だと気づいたのだろう。ササキさんは区役所に勤めていて、その頃この図書館に派遣されていたのだった。父と酒場で知り合ったことはずっと後になってから聞いた。
実家からバス通りを避け、裏道を行く。5分ほど歩くと橋が架かっていた。そう、川が流れていたのだ。西から東へ。昭和40年代に暗渠化されて、今ではバス通りになっている。ほぼ川沿いを歩いて、橋を渡ってたどり着く小さな社のなかにある小さな木造の図書館。今にして思えば、なんと神秘的な場所だったことか。
その後、区内に図書館が増えてきた。大きな図書館が近隣にいくつかできて、いつしか神社のなかの図書館に通うことは少なくなり、そしていつしか図書館もなくなっていた。
村上春樹の6年ぶりとなる新作長編を読む。40年以上前に雑誌に掲載され、その後単行本化されなかった中編の書き直しといわれている。きわめて動きの少ない静かな静かな物語だった。そして昔よく行った図書館を思い出させてくれた。
僕がはじめて通った図書館は本当にもうなくなってしまったのだろうか。どこか知らない街にひっそり佇んでいるのではないだろうか。高く不確かな壁に囲まれて、無数の夢を蔵書として。

2023年5月21日日曜日

東京コピーライターズクラブ、鈴木隆祐『コピーライターほぼ全史』

1980年代にコピーライターブームがあった。僕は当時、小さな出版社にでも潜りこんで編集者になろうと思っていた。
大手広告会社でグラフィックデザイナーを経て、やはり大手の出版社でエディトリアルデザイナーでもあった叔父からコピーライターをめざせとアドバイスをもらった。そこで通いはじめたコピーライター養成講座。思っていたほどコピーは書けなかった。出される課題は橋にも棒にもかからない。唯一、たまに佳作として選ばれるのはラジオCMの原稿だった。話しことばより書き言葉の方が得意だと思っていたのに。
電波媒体の広告制作を仕事とするようになったのにはそんな経緯がある。
かつて広告制作に携わる人はアートディレクターと呼ばれていた。アートもだいじだけど、メッセージもたいせつだよねってことで昭和30年代、それまでの広告文案家はアメリカから輸入されたコピーライターという単語で呼ばれるようになった。コピー十日会を前身とする東京コピーライターズクラブが誕生したのもこの頃である。
この本の最初の方に登場してくる方々は、僕が30歳くらいの頃の上司の上司である(僕の上司もTCCクラブ賞をかつて受賞している)。それから若い世代が台頭してきて、スターがあらわれ、名作コピーの数々が誕生した。商品の差別化が難しくなってきて、広告も少しずつ変わってきた。その変化をいちはやく捉えてヒットCMをつくりだす若きコピーライターまでこの本は網羅している。
磯島拓矢の項に「北海道国際空港(現AIR DO)」とあった。おそらく校正漏れだろう。著者はジャーナリストであるという。致し方ないところであるが、コピーライターなら広告主名はまず間違えることはない。タイトルにある「ほぼ」とは、こうした不完全なところがありますよ、ということか。
まあ、別に目くじら立てて非難するわけではもちろんない。完璧な文章は完璧な絶望と同じくらい存在しないのだから。

2023年5月16日火曜日

宮台真司『14歳からの社会学』

大型連休は特に何をするわけでもなく過ごした。横浜で小津安二郎展でも観ようかとも思ったが、何も混雑する連休に行くこともあるまいと先送りする。
鳴らなかったインターホンを直したり、ベランダの詰まった排水溝をほじくったり、本を読んだり。最後の日曜日を除けば天気もよかったので連日犬たちと散歩もした。それなりに忙しく、充実した日々を過ごした(つもりである)。
この本は3月に区の図書館で予約した。大型連休直前の先月末にようやく用意ができましたとメールが届く。
宮台真司は昨年、八王子の都立大学構内で切りつけられた。衝撃的なニュースだった。社会学者で都立大学教授の宮台真司の名前をこのとき知った人も多いかもしれない。それほどの人なら一冊くらい読んでみよう、ついては難解な著作は避けたい、タイトルを見る限り中学生向けかもしれない、ならば読んでみよう。ということで予約が殺到したのではないかと踏んでいる。かく言う僕もできれば簡単に読める著者の本をさがしていたのである。
宮台真司が難しいとは思っていない。社会学という学問に触れる機会がなかったせいだと思っている。社会科学といわれる学問のなかで法学、経済学にくらべると社会学は(少なくとも僕にとって)歴史の浅い混沌とした分野である。学生時代、一般教養の科目としてあったが、僕は選択していない。いわば食べたことがいちどもない料理みたいなものである。うまいかうまくないかもわからないし、仮にうまかったとしてどこがどううまかったのか理解も説明もしようがない。
著者によれば社会学の巨人は、デュルケム、ウェーバー、ジンメルであるという。なんとなく知っている。本を読んだこともある(もちろん憶えていない)。それはともかく宮台真司の主張はすべて、ではないが、所々納得できる。とりあえず、そういうところだけメモを取ってみる。そのうち全体像が明らかになるかもしれない。ならないかもしれない。

2023年5月9日火曜日

中山淳雄『エンタメビジネス全史 「IP先進国ニッポン」の誕生と構造』

先月、フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案)が成立した。コロナ禍で菅義偉前首相がエンタメ業界はフリーターが多く関与していて、その処遇を改善したいと語っていたことを思い出す。もちろんこれはフリーランスの言い間違いだろう。
今いる会社はテレビCMをはじめとした映像を制作している。ここのところ訳あって、その歴史を調べている。過去を振りかえるといろんな業種で賞を受賞している。CMの世界にはすぐれたCMを評価するコンクールが昔からあったのだ。
入賞作品を見てみると、食品、電機や精密機械のメーカー、男性用かつら、保険・銀行など金融関係、エステティックサロンなど幅広い。小さい会社ながら、かつては自動車でも入賞作品がある。
賞とはあまり縁がないが、ここ20数年でゲームの仕事が増えている。ゲーム好きのプロデューサーがいるせいもあるだろう(どの制作会社にもいるのだろうが)。僕自身はゲームとは無縁の生活を送っているので仕事にかかわることはほとんどない。近年の制作台帳を見てみるとドラゴンクエスト、バイオハザード、モンスターハンターなどゲームのことをまったく知らない僕でも聞いたことのあるタイトルが並ぶ。
少しはエンタメビジネスを知ろうとこの本を手にとってみた。ここで対象となるエンタメは「興行」「映画」「音楽」「出版」「マンガ」「テレビ」「アニメ」「ゲーム」「スポーツ」の9つの分野。大別するとコンテンツ市場、スポーツ市場、ライブ市場に分けられる。とりわけ興味を持って読んだのは「ゲーム」であるが、一時衰退したと思われる「音楽」「映画」「テレビ」などが思いのほか健闘している、成長している。
エンタメ世界はこれからの日本を支えていく産業になるのだろうか。ちなみに世界のゲーム市場は2025年に30兆円規模になると予想されているそうである。ゲームを知らない僕にはまったく想像しがたい。