二・二六事件。最後の現場は荻窪だった。
荻窪駅の西。環状八号線を越えたところに光明院という寺がある。いつ頃できたかは知らないが、境内には鐘つき台が設けられている。除夜の鐘もここから聴こえてくるのだろう。当日近隣に住んでいたとしたら、銃声も響いたに違いない。
陸軍教育総監渡辺錠太郎が暗殺された事件現場はこの寺のちょっと先である。さらに線路沿いを歩いていくと本むら庵といういい蕎麦屋がある。実は本むら庵に行くついでに、ああ、この辺りだったのかと知ったのである。本むら庵に行かなければ、僕と二・二六事件は接点のないままだった。
『蒼穹の昴』シリーズ第六部は『兵諌』である。またしてもタイトルが難解だ。
兵諌とは主君の行いを忠臣が剣を取って諌めた故事に由来しているという。兵を挙げて主君の誤ちを諌めるといった意味だろう。二・二六事件もこの小説では兵諌と位置付けられている。この事件に触発された張学良が蒋介石を軟禁する。いわゆる西安事件である。日中のそれぞれの事件につながりがあると見るのが一般的なのかどうかは歴史に疎い僕にはよくわからない。
なつかしい登場人物がいた。陳一豆である。北京で床屋の見習いだった一豆は北洋軍に召集され、張作霖の司令部付きの当番兵になった。その後、宋教仁や張学良の護衛役としてときどき登場していた。華々しい活躍に無縁だった一豆は最後の最後、一世一代の証言者となって張学良をかばい、死刑となる。仮に映画化、ドラマ化される際にはそれなりのキャスティングが必要だろうなどと考える。
このシリーズ、さらなる続編はあるのだろうか。『天子蒙塵』で満洲に渡った二少年の行く末も気になるところだ。
本むら庵の細打ち蕎麦はうまい。が、僕には華奢すぎる。板わさも焼きかまぼこより蒸しかまぼこが好きである。それでもときどきこの店を訪ねるのは蕎麦屋らしい凛とした雰囲気に浸りたいからなのである。空気は大切だ。
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