妙正寺川は、杉並区の妙正寺公園内の妙正寺池を源としている。新宿区の下落合あたりで神田川と合流する。妙正寺池から下流に向かって1キロほどで中野区になる。ほどなく西武新宿線鷺ノ宮駅にたどり着く。ほぼ東北東に向かって流れていた川はこの辺りから南へと大きく流路を変える。さらに2〜300メートルほど川沿いを行くとオリーブ色に塗られた橋が見えてくる。名前もオリーブ橋という。
全長9.7キロのこの川には90くらいの橋が架かっている。たいていは地名に基づく名前が付けられているので、オリーブ橋というのは奇抜な命名だと思っていた。
調べてみるとどうやらこの橋の近くに壺井栄が住んでいたというのである。オリーブ橋は、小豆島出身の壺井にちなんで名付けられたのだ。橋の南側には中野区立若宮小学校があった。今は統合されて同区立美鳩小学校になっている。若宮小学校は壺井の出身校である小豆島町立苗羽(のうま)小学校と姉妹校の提携を結んでいた。この辺り一帯は壺井栄の町なのである。壺井はそれまで世田谷に住んでいた。隣家の住人は林芙美子だったという。鷺宮に転居したのは1942年。
というわけで『二十四の瞳』を読んでみる。子どもの頃読んだ気もするが、読んでいない気もする。いずれにしてもまったく記憶がない。以前観た木下恵介監督の映画の方が記憶に残っている。主演は高峰秀子、大人になった磯吉を田村高廣が演じていた。映画では大石先生と子どもたちとの(卒業後も含めて)ふれあいの物語が色濃く印象的に描かれているが、原作を読んでみると瀬戸内海べりの寒村にも先の戦争が大きな影響を及ぼしていることがわかる。壺井栄が残しておきたかったのは戦時下の、銃後の日本だったのではないかと思う。
妙正寺川の最初の橋は妙正寺公園の入り口にある落合橋である。ひとつずつ橋の数を数えながら、下流に歩いていくとオリーブ橋は24番目にあたる。おそらく偶然だとは思うが。
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