2022年7月1日金曜日

安西水丸『青インクの東京地図』

1942年7月22日生まれの安西水丸は、生きていれば今年で80歳になる。
果たしてどんな80歳になったことだろう。
平凡社を辞めてフリーになった1970~80年代はイラストレーションや漫画、絵本の仕事が大部分を占めていたが、この『青インクの東京地図』を出版して以降、小説やエッセイを書くようになった。雑誌「小説現代」に連載されていたのが1986(昭和61)年。翌年の3月に単行本になっている。執筆のために歩いた東京はまだ昭和だった。JRはまだなく、国電が走っていた。汐留駅もまだあった。
冒頭の深川散歩がいい。冬木町から佐賀町、箱崎、越中島。相生橋を渡って佃を訪ねる。『東京美女散歩』にも登場した安田信三が登場する。安田は水丸の兄の建築設計事務所に出入りする大工と紹介されている。安西少年はいくどとなく安田の家を訪れている。子供いなかった安田夫妻は水丸をかわいがったという。銭湯に行った帰りに西仲商店街で少年雑誌を買ってもらった思い出が語られる。
僕も母の叔父が佃(その後月島に引っ越した)にいて、いっしょに銭湯に行ったり、夕涼みで西仲を歩いて、本を買ってもらったりした。まったく同じ経験をしているのである。
僕はひそかに安田信三は安西の叔父ではないかと思っている。ものごころつく前に父をなくした水丸は安田に父のにおいを感じたのではないだろうか。安田は建築設計を生業とする兄(水丸の亡父)の手助けをしたくて、大工になったのではないだろうか。そして安田も水丸少年に亡き兄のおもかげを感じとったのかもしれない。もちろん憶測の域を出ないが、安西は深川を歩きながら両国駅での兄との思い出にふれている。そのエピソードが安田信三と水丸少年の関係を語らずしてにおわせているような気がするのである。
7月は青山のスペースユイで安西水丸のシルクスクリーンが展示される。すっかり恒例行事になっている。今年も楽しみにしている。

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