2021年8月18日水曜日

上田諭『認知症そのままでいい』

銀座の小さな広告会社に勤めていた当時の上司から手紙をもらった。正直言って突然の手紙におどろいた。何かあったのかとも思うが筆跡は本人のものである(彼とは賀状のやりとりを続けている)。
小さな広告会社といっても親会社は最大手で彼はそこから出向してきた。文面には貴君の仕事にとって貴重な資料を20数年にわたって預かったままになっている、返却したいが、手紙の表書きの住所でいいか、確認のために同封のはがきを返送してほしい、その際近況など記されたくと書かれていた。そのまま黙って送り返してくれればいいものをまわりくどい手続きを踏むのは往年の彼らしい。
昨年認知症啓発の仕事にたずさわったことは以前書いた。そのとき感じたのは制作の過程で多くの協力者と打合せを重ねるのだが、自分があまり認知症のことを理解できていないということである。そういうわけで題名に認知症と書かれている本を時間のあるとき目を通すようになった。
この本は認知症を特別視しないという一貫した考え方に基づいて書かれている。加齢とともにリスクが高まり、根治する手立ては今のところない。予防もできない。早期発見できたところで投薬治療によって進行を遅らせるだけである。もちろん薬物を投与するということは副反応のリスクも負う。
認知症の主症状は認知機能が低下することである。よく認知症になると元気がなくなるとか、暴力をふるうとか、何かを盗まれた、ここは私の家じゃないなどといった被害妄想におそわれるというけれども、これらは認知症の中核症状ではなく、周辺症状=BPSD(行動・心理症状)であるという。これらは案外本人の話に耳を傾けなかったり、本人を人として尊重しなかったりすることで見られる症状である。認知症と認知症本人に対する正しい理解と接し方がいかに重要かがわかる。
数日後元上司からテレビCMを多くつくっていた当時の僕の作品集が送られてきた。VHSのテープで。

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