2013年5月19日日曜日
岡康道『アイデアの直前』
企画の仕事をしている。
企画といってもテレビコマーシャルのストーリーを考える仕事だ。僕たちの世界では映像の構成やナレーション、劇中の会話、バックに流れる音楽や画面上に乗っかるスーパーインポーズなどトータルで考え、絵コンテというカタチにする作業を企画と呼んでいる。ラジオであれば映像は考えなくていい。ただし映像がないぶんだけ気を遣うことも多い。「ごらんのように」なんていう言い回しが通用しない。「上腕二頭筋」みたいにいきなり耳に飛び込んできてもわかりにくい言葉は使いにくい。テレビとラジオとでは作業上似ているところも多いが、根本的に違う部分も多い。
企画をする上で役に立つのが、諸先輩をはじめとする他の人の仕事である。すぐれたクリエーティブの作品を視るのも役に立つ。講演会やセミナーで話を聞くことも有効だ。でもいちばんいいのはそのすぐれたクリエーターの日常をのぞき見することじゃないかと思う。
僕がまだ駆け出しだったころ、岡康道は憧れのCMプランナーだった。
営業としてキャリアをスタートし、その後クリエーティブへ転局。試行錯誤の末、ビッグキャンペーンを数多く手がけ、成功させた。ところが彼がいったいどんなコピーを書いたのか、どんな企画コンテを描いたのか。いわゆる広告クリエーターの手作業として彼が残してきたものはさほど多くないはずだ。それでいてその仕事の中心にたえずいた。岡康道なしでは成立しえなかったの仕事の真ん中に彼は立っていた。
この本を読むとわかるのだが、岡康道は天才でもなく、勤勉な努力家ということでもけっしてない。ごく普通の人間だ。当たり前に寝起きし、当たり前にスーツを着て会社に行く。もし彼に人より際立ってすぐれているところがあるとすれば、瞬時に物語をつくる想像力と人の能力や才能を見抜く眼力だろう。その力を力むことなく発揮するために岡康道はありふれた日常生活を楽しんでいる。
普通のなかに偉大さがあるのだ。
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