卓球の開放日に出会ったK山さん。
毎月末の土曜日にやってくる。4ヶ月ほど前初めてお相手させていただいた印象は“先生”といった感じだった。
腕前もさることながら、打ち合いながら包容力を感じる。懐の深い人なんだと思った。
休憩をとり、煙草をふかしながら話し込んでみると御年80歳。若い頃は広島の中学校で教鞭をとられていたらしく、部活動の顧問となったのが卓球との出会いだという。その後、東京で某大学の教壇に立たれていたという。
現在はご子息家族が近所に住んではいるものの、奥方様を亡くしてからはひとりぐらしで気ままな毎日を過ごされている。楽しみは月に一度の卓球とミニテニス。そして年に一度のクラス会で広島の教え子たちと会うことだそうだ。
「いつまでできるかわかりませんが、汗をかくっていいもんです」
とヤニだらけの歯を見せて笑う。
K山さんのラケットは教員時代からずっと使っていたという年代ものだ。ラバーは赤というより白。
あんまり古びているのでこのあいだラバーを貼り替えてあげた。
「なんだかボールが“かかり”ますね。いいですよ、これ」
とヤニだらけの歯を見せて笑う。
その日は終了時刻いっぱいまでラリーを楽しんだ。
夏目漱石が出会った“先生”とはちょっと違うだろうが、こういう人生の先達にお会いできるだけでも体育館に通ってよかったと思う。
仕事場のロッカーを片付けていたら重松清の本が何冊か出てきた。おそらくこの本が最初に読んだものだと思う。タイトルの“F”はファミリーのFであるそうだ。
重松ワールドはどんより曇って湿度の高い遅めの午後といったイメージがあるのだが、ささやかな日常の薄暗い世界を重く重く描いている。最初読んだころは子どもも小さかったけれど、いつしかぼくもこの小説の登場人物にふさわしい年恰好になったんだなとふたたび頁をめくってそう思った。
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