子どもの頃、日曜日になるとカメラを手に大井町駅近くの歩道橋に行った。朝、次から次へと寝台特急ブルートレインが九州から東京駅めがけて走ってくる。「さくら」「みずほ」「はやぶさ」「あさかぜ」といったヘッドマークを付けた電気機関車EF65が牽引していた。
列車や時刻表を眺めるのは好きだったけれども機関車を動かしたり、駅で働きたいとまでは思わなかった。好きではあったが、生活の一部とするような身近なものとは思えなかった。
高校の同級生坂田は大学卒業後、国鉄に就職した。聞けば父親も祖父も国鉄に勤務していたという。鉄道は幼少の頃から密接につながっていた身近な職業だったのかもしれない。
入社後、坂田は九州に配属されたが、民営化の直前に名古屋に異動し、以後JR東海の一員として活躍したようだ。その後キオスク東海や名古屋駅構内のレストランの運営会社に重役として出向したと聞いている。民営化によって鉄道は安全にモノと人を運ぶ装置だけではなくなってきたのだろう。顧客の利便性に加えて、さまざまなサービスが提供されている。
バックヤードという言葉がある。顧客の目にふれない裏方の空間とでもいおうか。駅員でなければ見ることができないバックヤードが駅にはある。ましてや東京駅のような巨大なステーションには複雑怪奇な迷路のような通路が幾重にも重なっているような気がする。
この本のおもしろさは一般乗客が見ることのできないバックヤードが詳細に描写されている点にある。もちろん寸分の狂いもなく安全に列車を運行させる業務は緊張感の連続であり、簡単な仕事ではない。そんな苦労も含めてこの本はバックヤードの物語なんだなと思うのだ。
主人公をめぐるあれやこれやのエピソードにも興味をそそられたが、駅という巨大で複雑な空間につい興味がいってしまう。悩み苦しむ主人公と彼女を支える仲間たちの成長の物語なのに申し訳ない気持ちでいっぱいである。
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