2026年4月1日水曜日

瀬尾まいこ『幸福な食卓』

もともと蕎麦が好きで、もり蕎麦をたぐって辛汁にちょいと付けるのが好みだった。寒い時期には鴨せいろ。蕎麦は冷たいがあつあつの汁をくぐらせる。デフォルトはもり蕎麦、ざる蕎麦で蕎麦屋で天ぷらを食べることはあまり多くなかった。天ざるは一部の店を除いて注文することはない。それでも少しずつ好みが変化している。最近そんなことに気づいた。
ある時、近所の蕎麦屋でお品書きにないいか天蕎麦が短冊になって貼られていた。天ざるもほとんど食べないが、天ぷら蕎麦もあまり食べない。立ち食いそばでかき揚げとかゲソ天を頼むことはあるけれど。というか立ち食いそばでは何がしかの天ぷらをのっけないと食べていてちょっと手持無沙汰になる。
さてそのいか天蕎麦を試しに頼んでみるとこれがうまい。蕎麦がさほどうまいわけでもない。普通の蕎麦屋の普通の味だ。つゆがうまいわけでもない。飛び切り出汁がいいわけでもなく、かえしがいいというわけでもない。普通の蕎麦屋の普通のつゆだ。
ひと口すすり、ふた口すすり、天ぷらを少し食べて、つゆをすする。天ぷらからつゆにうつる綿実油がうまいのだとようやくわかる。以後、天ぷら蕎麦にはまってしまった。普通の蕎麦屋で食す普通の天ぷら蕎麦を食べくらべるようになった。
いわゆる名店の天ぷら蕎麦はうまい。神田の老舗蕎麦屋の天吸いなんぞはおかわりしたくなる。ごま油なぞ使っているのだろう風味豊かで圧倒される。もちろんそれなりのお値段ではある。ただね、2,000円、3,000円の天ぷら蕎麦がうまいのは当たり前のことでそれで幸せかといえば、お金を払ったぶんだけ幸せである。それよりもっと幸せなのは1,000円ちょっとで味わえる天ぷら蕎麦なのではないだろうか。
瀬尾まいこは3冊目になる。穏やかな毎日の描写が好きな作家である。なのになあ、なんでこんな展開にしちゃうんだよ、悲しすぎるじゃないかと思ってしまった一冊であった。

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