2022年11月11日金曜日

高野光平『発掘! 歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代』

一般財団法人ACCが日本広告主協会、日本民間放送連盟、日本広告業協会によって組織されたのが1960年。テレビコマーシャルのすぐれた作品を表彰するACC賞(ACC CMフェスティバル)はその翌61年からはじまった。それまでアニメーションによるCMが多数を占めるなか、実写 CMが増えてきたのが昭和30年代後半である。テレビCMがより身近なものになって、その質が意識されるようになった時代なのかもしれない。
以前、ある広告大手のクリエイティブディレクターが「忘れらてしまうメディアでどう忘れさせないようにするかがCM制作のいちばんのポイント」というようなことを語っていた。印刷媒体の広告と電波媒体のそれの大きな違いはここにある。
著者は茨城大学人文社会学部教授。昭和草創期のテレビコマーシャルに関する著書も多い。昭和30年代のテレビCMはそのほとんどが現存していない。まさに「忘れられて」しまった広告なのである。それでも方々探しまわってアーカイブを見つける。ほとんどが日本最古のCM制作会社といってもいいであろうTCJ(Television Corporation of Japan)に保管されていたというのだ。京都の大学でアニメーションの研究資料として貸与契約を交わしてデジタル化したらしい。
昭和30年代半ばに生まれた僕には本書で紹介されているCMはまったく憶えがない。ただ自分が生まれて物心がつく前、大人たちはこんな暮らしをしていたんだなと思うだけである。
著者は言う。昭和30年代の硬直化した歴史イメージをときほぐし、忘れられた消費生活のプロトタイプ=昭和30年代の多様性とディテールを重視するために歴史に埋もれたテレビCMを掘り起こしているのだと。
誰の記憶にも遺されていないテレビCMたちから時代を読み解くという作業は興味深い反面、途方もない仕事である。テレビCMの考古学といってもいいだろう。

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