2022年3月6日日曜日

夏目漱石『それから』

以前、早稲田鶴巻町に住んだことがある。近くに夏目坂、漱石公園など漱石ゆかりの地が多くあった。
たいして読んでいなかった夏目漱石を最近読んでいる。早稲田界隈が舞台かというと案外そうでもない。かといって特別な地名が出てくるわけでもない。東京に住んでいる人ならたいてい知っている町でストーリーは進展する。
いい歳をしてこの本をはじめて読む。主人公の代助は牛込(神楽坂)に住んでいる。実家は青山にあり、父と兄夫婦が暮らしている。大阪から戻った友人の平岡夫婦は小石川に住まいを見つける。
実家に行く代助は牛込から電車に乗る。おそらく今の飯田橋駅辺りだろう。平岡の妻、三千代に会うときは江戸川沿い、大曲の辺りから春日の坂道を上っていく。平岡の家は伝通院の近くにある。歩いて行けない距離ではない。もちろん当時のことだから、電車以外にも車という手立てがある。車というのは人力車で、電車というのは路面電車だ。
読みすすむと話はだんだん込み入ってくる。代助と三千代、代助と平岡、そして代助と父。徐々に結末に向かっていくのだけれども、代助の移動ばかりが読んでいて気になって仕方ない。とりわけ牛込から小石川へ、代助はどんな道を歩いていったのか。
四十数年前、九段にある高校に通っていた頃。練習試合で伝通院近くの都立高校まで行くことになった。最寄駅は東京メトロ丸の内線の茗荷谷駅か都営地下鉄三田線(当時は都営6号線と呼ばれていたと思う)の春日駅である。飯田橋から国電で隣駅の水道橋まで出て、都営地下鉄に乗り換えた。春日駅は本郷台地と小石川台地の谷にある。富坂というだらだら長い坂道を歩いてめざしていた高校にたどり着いた。駅からは15分くらいだったと思う。
当時もし漱石のこの作品を読んでいたら、おそらく大曲から安藤坂を上って行ったかもしれない。それはともかくとして漱石の描く東京を散歩してみるのって楽しいかもしれない。

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