大元のおやじは(今はおそらくご子息が店を切り盛りしていると思う)大の中日ファンで店の壁という壁には東京中日スポーツの記事や中日ドラゴンズの選手の写真やサイン色紙が貼ってあった。実家の隣のツネオさんが太洋(現DeNA)ファン、向いのキヨンドさんが東映(現日本ハム)ファンだったけれど、僕の住んでいた町では巨人以外のファンはまったく奇異な存在だったのだ。
ある晩、野菜炒めをつまみながらコップ酒をすすっていた。少し酔った僕は、僕の叔父も中日ファンなんですよと口ばしってしまった。おやじさんは目を丸くして、「そうなの?叔父さんって、奥さん(僕の母のことを言っている)の弟さん?ああ、そうなんだ」とたいそうよろこんで、一升瓶の栓を開けてもう一杯飲めとすすめる。今年は今ひとつなんだよね、とか新人の誰それがいいとか、監督はいいけどなんとかというコーチがよくないなどと一方的にまくしたてた。
で、おにいさんも中日?と訊ねられて、僕はつい「僕は巨人なんですけど」と答えてしまった。おやじさんの話はここで終わり、おあいそのとき、お酒二杯分がしっかり計上されていた。
安西カオリは2年前に『さざ波の記憶』を上梓している。父・安西水丸のイラストレーションをあしらった画文集である。増刷されなかったのか、今入手するのは困難な本になっている。この本は前作に数編の書き下ろしを加えたもので、特に目新しさは感じないけれど、ニューヨーク時代のこと、カレーライスのこと、中日ドラゴンズのこと、北海道のことなどが新たに語られている。筆者が思う安西水丸が一般のファンの人たちが思い描く安西水丸に少し近づいた印象である。安西水丸が描いた星野仙一胴上げのイラストレーションが東京中日スポーツに載ったことを思い出した。
1999年だった。
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