ましてやキネマ旬報を定期的に購読するような読者でもなかった。それでもキネ旬に連載されていた和田誠の「お楽しみはこれからだ」くらいはときどき立ち読みしていた。映画を絵と文章で再構築することは難しい作業ではあるけれど、きっと楽しいのだろうなと思って眺めていた。
あるとき、いつものように書店でキネ旬のページをめくるといつものページに安西水丸のイラストレーションが描かれている。「お楽しみはこれからだ」というタイトルは「シネマ・ストリート」に代わっていた。新連載がはじまったのである。
こんなことは余計なお世話かも知れないが、和田さんの、連綿と続いたこの名作シリーズを引き継ぐほどの力が安西水丸にあるのか不安で仕方なかった。ときどき立ち読みしては、南房総千倉の映画館に姉と行ってちゃんばら映画を観た話とか、あまり似ていない映画スターのイラストレーションをはらはらしながら眺めていた(別に何様でもない僕がはらはらする道理はないのだが)。
連載が終わって、単行本化された。すぐに買った。奥付には1989年12月12日初版発行とある。立ち読みするようにところどころ拾って読んではみたが、通しで読むことなく、この本は30年以上も書棚で眠っていた。
要するに、大むかしに買った本をようやく読了したというだけのことなのであるが、なんと字が小さな本なのだろうというのがいちばんの感想である。みんな若かったのだ。ヴィレッジヴァンガードでセロニアス・モンクにハイライトをあげたエピソードも記されていた。
古いアートディレクターやグラフィックデザイナーは、今と違って海外のデザインや文化に接する機会が圧倒的に少なかった。レコードジャケットと映画から自らデザインを学ぶしかなった。安西水丸も数多くの映画を窓にして、世界を眺めていたのだろう。
彼が通った映画館もずいぶんなくなっている。さびしいことである。
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