2020年1月24日金曜日

獅子文六『やっさもっさ』

子どもの頃、磯子に住む親戚を訪ねた。帰り途、父の運転するクルマで丘陵地を抜けた。西日を浴びた緑色の路面電車が繁華街を走っていた。伊勢佐木町辺りだっただろうか。記憶に残る数少ない横浜の風景である。
大学生の頃の指導教官が横浜に住んでいた。1982年だったか、新年会を催すとのことで、卒論指導を受けていた学生や院生、卒業生らが集まった。中区山元町。横浜駅ないしは桜木町駅から根岸方面へバスの便があると聞いていたが、地図を頼りに石川町駅から歩いた。川沿いを歩いて、地蔵坂を登る。坂道はやがて山手本通りに合流し、そのまままっすぐ400メートルほどでめざす先生の家に着く。
ところが現実はそうはいかない。坂道の途中には道幅の狭い脇道があり、石段があったりする。魅惑的な小道についつい引き込まれる。七転八倒、余計なまわり道の末、ようやく山元町にたどり着いた。
山元町と隣接した大平町、その交差点近くに曹洞宗の寺がある。義母の実家の菩提寺である。墓所は根岸の共同墓地で、米軍住宅に隣接している。根岸の競馬場跡が見える。葬儀や法事で何度か訪れている。その度に石川町駅から山元町まで歩いた冬の日を思い出す。
山元町から横浜駅根岸通をさらに進んだ辺り、競馬場跡と米軍キャンプの跡地が公園になっている。高台にあって見晴らしがいい。海が見える。本牧辺りだろうか。
根岸を起点にして、元町や関内、伊勢佐木町などを歩いてみるのもおもしろそうだ。山手に住んでいた山本周五郎が根岸の山を越えて、横浜橋で蕎麦を食べていたと何かの本で読んだ。横浜には横浜の歴史があり、東京の下町とは少し違うけれど、魅力に富んでいる。
澁谷實監督「やっさもっさ」を昨年観て、原作も読んでみたくなった。C書房の川口洋次郎に問い合せたところ、12月刊行予定と聞いた。崎陽軒とタイアップした限定版の装丁なども含め、話題の一冊となった。
この本を片手に横浜散策するのも悪くない。

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