2018年10月31日水曜日

デービッド・アトキンソン『新・観光立国論』

日本も人口減少がはじまった。2040年代には毎年100万人以上のペースで減っていくという。一年ごとに仙台市や広島市、千葉市がなくなるというわけだ。
人口が減ってしまうと労働力が不足し、行政サービスが不十分になる。東京都内の鉄道は山手線以外はなくなるとも言われている。大都市が廃墟となる。
今から心配しても仕方がないが(そのときなればなったで何とかなるだろうという見方もあるはずだ)、どのみち人口が減っていいことはなさそうだ。国としても生まれてくる子どもを増やそうだのいろんな施策を考えているのだろうが、おいそれとは人口なんか増えはしないだろう。海外からの労働者を受け容れるという選択肢もある。移民である。ヨーロッパやアメリカでは一般的なことになっている。もちろんそれにともなう社会問題も後を絶たないが。移民は必要だろうが、百数十年前まで鎖国をしていた島国で果たして根付くだろうか。日本人の国民性からして移民政策は馴染めないと思う。
と、そこで著者が提案するのが「短期移民」という考え。つまりは観光客を増やして外貨を落としていってもらおうということだ。
最近訪日外国人旅行者が増えている。どこに行っても外国人でいっぱいだ。鉄道の乗換案内や切符売場には日本語・英語・中国語・韓国語で表記されている。年々増える一方で2020年には4,000万人に上ると言われている。
ところがだ。2017年に前年比20%近く増え、3,000万人近く海外からの旅行者が訪れた日本はまだまだ観光後進国であるという。海外からの旅行者の多いフランス、スペインは8,000万人以上、アメリカは7,500万人超。日本は世界ランキングは12位。ベスト10にも入っておらず、アジアの中でも香港、台湾を含めた中国やタイに大きく後れを取っている。
だからこそ観光産業に力を注いで、観光立国しなさい、というのがデービッド・アトキンソンの提言なのである。

2018年10月30日火曜日

箕輪厚介『死ぬこと以外かすり傷』

野球の季節もそろそろ大詰めである。
高校野球は夏以降始動した新チームによる地区大会がほぼ終わり、来月の明治神宮野球大会を迎える。大学野球は4年生が出場する最終の大会となる。社会人野球日本選手権もまもなくはじまる。
今年はドラフト会議で高校生の有力選手複数に指名が重なった。全体的にレベルの高い世代だったかもしれない。甲子園で春夏連覇した大阪桐蔭からはなんと4人も指名を受けた。昨年の主力の多くが東京六大学など進学する者が多かったことを考えるとやはり今年の方がいい選手がそろっていたのだろう(それでも今年のエース柿木連より昨年の徳山壮磨の方が上だと個人的には思っているが)。
根尾昴と報徳学園の小園海斗は4球団から入札があった。小園と3球団から入札があった藤原恭大は将来的にどんな選手になるかイメージしやすい。たとえば巨人の坂本みたいな遊撃手になるだろとか瞬足強肩強打の外野手になるだろうことは想像できる(実際は厳しいプロの世界だからそう簡単にはいかないだろうが)。わからないのが根尾だ。外野もできる内野もできる投手もできるということではやくも二刀流かなどと騒がれているが、身体能力の高さを活かすのなら遊撃手ではないかと思っている。それも吉田義男や藤田平、石毛宏典のような華麗な守備を見せる巧打者ではなく、高橋慶彦や松井稼頭央のような野性味あふれる選手になりそうな気がしている。それだけ計り知れないものを持っているように思えるのだ。もしかしたら長嶋茂雄をも超えるのではないかなどと大それた期待すら持っている。
箕輪厚介という人物は知らなかったが、ベストセラーを次々に世に出す敏腕編集者だという。編集という仕事に携わっている知人は何人かいるが、その職種がどういうものかもわからない。
こうした武勇伝で若者たちを煽る時代でもないだろうと思うが、逆に考えると語気荒くけしかけなければ世の中におもしろいものが生まれなくなった時代なのかも知れない。

2018年10月26日金曜日

鷹匠裕『帝王の誤算』

仕事場が麹町から築地に移ってもうすぐ3年になる。
今さら築地?とも思ったけれど、地下鉄都営浅草線に乗れば京成沿線に出られるし、東京メトロ日比谷線に乗れば、入谷や千住、さらには東武沿線も近い。下町好きにはかなりいい立地だ。少し歩いて隅田川を渡れば、佃や月島もすぐそこだ。麹町みたいな山の手特有のアップダウンはないけれど、それもまた東東京の楽しみでもある。
広告制作に長いこと携わってきた。築地は広告業の遺跡が遺されている。
電通は1967年、提灯行列を連ねて銀座からこの地に移ってきた。現在は本社ビルを汐留に構えているが、長いこと築地を拠点としてきた。本社ビルはまだ解体されることなく遺されている。建築家丹下健三の設計だと聞いている。周辺の建物を見ても、これだけ個性的なビルはあまり見ない。本社ビル移転後も電通は成長を続け、第2ビル、第3ビル…と複数のビルで業務を行っていた。計り知れない猛烈な勢いで成長を遂げていった広告会社であることがそれだけでも察することができる。
この小説は電通の話ではない。フィクションである。舞台は「連広」という広告会社だ。
連広の社員は連広社員手帳(通称連帳)を持っている。RENNOTE(レンノート)ではない。第4代社長押田英世の残した「十の掟」が記載されている。主要広告主はトモダ自動車である。自動車業界第2位のニッシン自動車の扱いもあったが、ライバル会社弘朋社に奪われる。その昔どこかで聞いたような噂話が次から次へと登場する。読んでいてハラハラする。知らない人からすればまったくのフィクションだけれど、少し知っている(それは真実かどうかは別として)人にとっては、である。
登場人物はそれなりの地位の方々である。会ったことはないけれど、名前くらいは知っている。いやいや、これはフィクションだから、架空の人物である。知っているはずがない。それはじゅうじゅうわかっている。
わかってはいるんだけどね。