2013年6月7日金曜日

銀座百点編集部編『私の銀座』


東京六大学春季リーグ戦は明治と法政の一騎打ちだった。
船本、石田を中心に投手力で勝る法政は開幕から連勝で勝ち点を伸ばし、一方明治は東大戦以外は3戦、4戦ともつれる展開だったが、同じく勝ち点4で法政との決戦にのぞんだ。初戦を法政が取り、9連勝で優勝に王手。粘り強さの明治もここまでかと思われたが、翌日の第2戦を引き分ける。リードしながら追いつかれての引き分け、明治は流れをつかめない。ところが第3戦、中軸にタイムリーヒットが集中し、タイに。こうなると明治ペース。第4戦も接戦だったが、関谷、山崎の日大三リレーで法政を振りきった。
翌週の早慶戦はそれまで打てなかったのが嘘のように早稲田の打棒がさく裂。2連勝ですんなり4位が決まった。
早慶戦が終わったあとのお楽しみは新人戦だ。これは1、2年生によるチームでトーナメント戦を行う大会。昨年甲子園を沸かせた新入生たちのデビュー戦となることが多い。神宮球場に集まるファンもマニアックな野球好きである。この春も北海のエース玉熊(法政)や作新の石井(早稲田)らが先発出場した。
新人戦の楽しみはこうした1年後の高校球児に出会えることもあるが、野球本来の“音”に触れられることも忘れてはなるまい。リーグ戦と異なり、スタンドに応援団の姿はない。客席にいるのは出場する下級生の家族や上級生、アマチュア野球に心酔するファンが少々。だいたいそんなところだ。そのぶん、野球の音が球場じゅうに響きわたるのだ。
バットの芯でとらえられたボールの、長く余韻を引く音。ミットにおさまる直球の乾いた音。ベース前を削りとるスライディングの摩擦音。ベンチから飛びかう気合いのひと声。スタンドで耳を澄ましているだけで存分に野球に浸れるのだ。
銀座は大人の町だった。革靴を履かなくちゃ行けない町だった。
人それぞれに野球の楽しみ方があるように、人それぞれの銀座があるもんだ。

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