2019年5月14日火曜日

村上春樹『THE SCRAP 懐かしの一九八〇年代』

ちょっと頼まれて1980年代のことを調べている。
80年代といえば、年齢でいうと20代の頃である。少しばかり勤勉な大学生なら医者になってもおかしくないくらい長いこと大学にいて、ろくすっぽ就職もせず、そのうちにテレビコマーシャルの制作会社にアルバイトでもぐり込んだ楽しくも忌まわしき20代の頃である(親にさんざん迷惑をかけていたことを思うと胸が痛い)。とはいうものの、その後の30代、40代と後になればなるほど記憶は薄れていく。
その頃、世の中はどうだったか。宇宙からE.T.がやってきてエリオットの家に寄宿する。ニューヨークには幽霊がたくさんあらわれ、冴えない博士が退治に躍起になる。そしてカリフォルニア州ビルバレーの高校生マーフィーは親友の科学者ドクと30年前にタイムスリップする。
僕はといえばすでに高校生ではなく、大学生とは名ばかりでやることなすことうまくいかない80年代だった。週に何日か、中学生や高校生に勉強を教え(それだって僕が見る勉強なんてたかが知れている)、神田鍛冶町のとんかつ屋でポテトサラダをつくっていた80年代、世界は不思議で愉快なできごとに満ち溢れていた(映画の世界とはいえ)。
この本が刊行されたのが87年の2月。文藝春秋の『Sports Graphic Number』の連載をまとめたものだ。時期的には『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を執筆していた頃か。アメリカから取り寄せた新聞や雑誌のなかからおもしろそうな、気になった記事やコラムを紹介している。ありがちな企画かもしれないが、村上春樹が紹介するところが他にはない魅力になっているのだろう。
後ろの見返しに「870509」と書かれている。最初に読んだ日付だ。しゃべれるかしゃべれないかはともかく、雑誌の短い記事を読めるくらい英語を勉強しておけばよかった。
なにをどう思おうと勝手だが、今となっては大概のことは後の祭りである。

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