高校に入学する前の春休みに教科書などを買いに行く日があった。
当時校舎の地下に購買部があっておそらくはそこで買ったのだろうが記憶が定かではない。憶えているのはすでに教科書が売り切れていて、自分で本屋に行って買ってこいという指示だけだ。今考えてみるとおかしな話だ。教科書を買いに来いと呼びつけておいて、売り切れたから(そもそも生徒数ぶん用意してあるんじゃないのか)本屋へ行けと。たしかに今考えるとおかしな話だが、そのころは不思議とこうした理屈に合わないことが素直に受け容れられた。適度に緊張していたせいかも知れないし、もともと物事を深く考える方ではなかったからかも知れない。
たまたま指定された本屋が神田神保町の三省堂書店で学校から歩いてもわけのない場所だった。とぼとぼ歩いていると同じように校舎を出てとぼとぼと前を歩く生徒がいた。当時の三省堂は今のようなビルではなく、木造の本屋だった。書店というより本屋。黒い木でできた床がみしみしいう店内に膨大な数の教科書が並んでいた。最初からここで買えと指示してくれればよかったのに。
昨年の秋に梨木香歩の新刊が出たから買ってくれと娘に言われ、三省堂で購入した。厳密に言うとどこで買ったか憶えていないのだが、三省堂のカバーがしてあったから、間違っちゃいないだろう。
梨木香歩は今まで知らなかった世界に導いてくれる作家のひとりだ。水辺だったり、織物の世界だったり、トルコだったり。今回はアフリカ。
水にまつわるエピソードや精神世界への展開はおなじみの梨木ワールドだ。
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