2011年5月24日火曜日

梨木香歩『僕と、そして僕たちはどう生きるか』


小学生のころはずいぶん本を読んだものだが、中学から高校にかけてはほとんど読まなくなった。理由は思い当たらない。結果的に読まなかったということだ。月並みな原因究明をするとすれば、勉強や部活が忙しくなったとか、深夜ラジオばかり聴いていたとか、たぶんそんなことだろう。
そんなわけでその頃読むべき本を読んでいないのが自分の読書的特徴である。いわゆる名作が欠落している。もちろんそれが原因で不幸、不利益を被ったことはない。『こころ』を読まなくても学校生活に支障はなかった。むしろ谷村新司の天才・秀才・ばかシリーズを聴かないと翌日つらい思いをした。
久しぶりに梨木香歩を読む。
主人公の名はコペル。その叔父さんが子どもの頃読んだ本の主人公の名が、彼の呼び名になっている。その本はもちろん、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』だ。
群れの中で自分自身と向き合いながら、どう生きていかなければならないのかという物語である。もちろん“どう生きるのか”の答はない。集団に順応し、流されていくこともある主人公をはじめ、さまざまなタイプの少年少女が登場する。童話のようにわかりやすいキャスティング。サイドメニュー的な役割を果たしながら彼らをフォローする大人たちとエピソード。舞台は森。読み手にストレスを与えない梨木ワールドだ。
初代コペル君は上級生にいじめられる親友に助けを貸さなかったことで自己嫌悪に陥り、苦悩する主人公だったが、今回はコペル君とその仲間みんなが主人公だ。
多様化する時代、多様化する個と集団をも視野に入れた平成の吉野源三郎である。

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