なぜ角型ペンホルダーによるフォアロング主体の卓球に日本卓球の原点というイメージを持ったのだろう。
両面にラバーを貼るシェークハンドグリップが巷にあふれ、少数民族と化したペンホルダー、とりわけ、半世紀以上前に世界を制した日本式グリップに孤高の輝きを見出すからか。はたまた片面だけで多彩な攻撃を繰り出し、時にショート、ロビングでしのぎ、捨て身のカウンター攻撃に出るその潔さに日本的な武士道精神を感ずるからか…。まあ、これらはあくまでぼくの個人的なイメージでしかない。
そもそも日本で普及した卓球は軟式といって、通常の、現在行われている硬式よりも軽いボールを使い、コートも若干小さかった。しかもラケットはラバー貼りではなく、木のままかコルク貼り。スピードが出ないぶん、とにかく攻撃することで点を取り合った。攻撃するにはフォアロングの方が有利だし、コートも狭いからバック側のボールも回り込んでフォアで強打する。
一方、卓球の本場ヨーロッパでは硬式球が普及し、ラケットもラバー貼り。打球が速く、コートも広いから(ついでにいうとネットも低い)、相手の攻撃を如何に封じて、守りきるか、あるいは如何に相手に攻撃させないか、が戦い方の主眼に置かれた。
というわけでヨーロッパの伝統的なスタイルはシェークハンドグリップによるカット主戦型で日本で普及した卓球はペンホルダーによるフォアロング主体のドライブ攻撃型となった。
と、まあこんなエピソードが満載なのが本書であり、用具の発達、普及によって戦い方が変化してきたことなどもよくわかる。荻村伊知朗は卓球もさることながら、外国語や文才にも恵まれ(もちろん彼のいちばんの才能は惜しみなく努力することなのだが)、ヨーロッパを日本が凌駕した50年代を「スピードの時代」、60年代中国前陣速攻の台頭を「打球点の時代」、そして70年代の攻撃型ヨーロッパスタイルに象徴される卓球を「スピンの時代」と名づけるなど卓球理論家としても素晴らしい業績を残した人といえる。
先に『ピンポンさん』を読んだが、ライターが書く演出された卓球物語もよいが、こうした時代とともに卓球と歩んできた人たちの文章も臨場感があっておもしろい。
80年代以降は「速さと変化の時代」であるという。先日関東学生リーグを観にゆき、五輪代表明治の水谷をはじめほとんどの選手がシェークの攻撃型。中にはカット主戦型もいるが、彼らもしばし攻勢に出る。わずかにペンホルダーの選手がいて、中国式グリップの選手をふたり、角型ペンの日本式グリップの選手をひとりだけ見た。
世界ランカーの上位を中国勢が占め、しかもその大半(特に女子)がシェークハンドグリップの速攻型やドライブ型であるが、中にはカット主戦の選手もいる。また男子の世界ランク1位、2位が裏面打ちペンホルダーだったり、台湾や韓国には日本式ペンホルダーの選手もいる。ひとつのスタイルが世界を統一するのではないことで卓球はまだまだ可能性のある競技だと思える。
「速さと変化の時代」はさらなる多様性を生む時代なのかもしれない。
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