2026年3月2日月曜日

出久根達郎『名言がいっぱい』

彦根まで出かけた。
旅行らしい旅行をこのところほとんどしていない。せっかくだから観光らしい観光をしてみたくなった。ホテルの窓から彦根城が見える。お城が好きで日本中の城を訪ねている人も多いと聞く。これまでどれくらいのお城を見てきたか思い出してみる。鶴ヶ城、小田原城、名古屋城、大阪城。鶴ヶ城は中学の修学旅行で行った。それまで修学旅行は京都・奈良だったが、僕たちの学年から東北になった。おそらくろくでもない先輩たちが京都・奈良でろくでもないことをしたせいじゃないかと皆で噂した。
国宝彦根城は金亀山という標高50メートルの山の上にある。ちょっとした山登り気分である。ハアハアゼイゼイしながら山頂にたどり着く。そこに天守閣がそびえている。いい運動になった。
彦根の町を散策しながら、駅まで歩いた。個人商店らしい建物がシャッターで閉ざされているのは東京でも見かける現代の風景である。在来線で米原に出て、新幹線で東京に戻る。車中、ビールを飲みながら読んだのがこの本である。
以前『佃島ふたり書房』を読んで出久根達郎のファンになった。『逢わばや見ばや』『二十歳のあとさき』『逢わばや見ばや完結編』を立て続けに読んだ。おだやかな文章を書く人だ。読んでいて心が安らぐ。
名言に関して、著者はあとがきで「名言というのは、その言葉を発した人によって決まるのであって、非凡な人が当たり前の言葉を語ったとしても、聞く者には非凡なのである」と述べている。というわけでこの本では名言の背景、発した人の経歴や体験などを著者らしいおだやかな文章で綴っている。
全部で56の名言が紹介されている。残念ながら知っていたのは金子みすゞの「ごめんね」っていふと/「ごめんね」っていふだけだった。逆に考えると55もの未知の名言に出会えたということだ。しかもその名言の背景まで教授していただけたのである。久しぶりに心安らぐ読書体験だった。