2016年9月23日金曜日

石原慎太郎『天才』

物心ついた頃から、総理大臣はずっと佐藤さんという人だった。
最初の総理大臣は伊藤博文で、途中は知らなくて、あるときからずっと佐藤栄作だった。
東大安田講堂事件もあさま山荘事件も沖縄返還も佐藤栄作時代のできごとだ。
1972年、総理大臣は佐藤さんから田中さんに代わった。
はじめての大正生まれの総理大臣だった。さらに高等小学校を卒業しただけという学歴のなさも話題になった。総理大臣は東大を卒業していなければなれないと多くの人が思っていた。
田中角栄が首相就任前に著した『日本列島改造論』という本も話題になった。
いちばん記憶に残っているのは日中国交正常化だ。その後オイルショックなどあって、物価が高騰。田中角栄という人物の明るいキャラクターとは裏返しの不安な世相につつまれた。
そして田中金脈問題、ロッキード事件と疑惑の渦中に陥れられ、まもなく退陣する。
当時中学生になったばかりの少年にとって田中角栄の記憶はこの程度のものではないだろうか。
石原慎太郎が田中角栄になり代わって、自伝を書いた。
一人称で語られている。
40数年前には知らなかった田中角栄がよみがえった。
現在の日本の礎となっている法律を数多くつくった政治家は、後に金脈問題を取り沙汰されたが、選挙のための莫大な資金集めに奔走し、派閥議員の運動資金として提供してきた。考えようによっては自らのアイデアを形にするための一方策だったのだろう。ロッキード事件もどこか仕組まれた感があり、選挙資金として何十億円も集める力のある田中角栄が賄賂として5億円程度を受け取るとは思えない。
よくもわるくも日本という国を支え、動かしてきた法律を立案し、整備してきた田中はコンピュータ付きブルドーザーとよく呼ばれていた。土木建築のための重機としてのブルドーザーではなく、この国を建て直し、整備するためのブルドーザーだったのだ。
かつて保守傍系で反田中の立場にあった石原慎太郎が田中角栄を読みなおした本として興味深い一冊だ。